海辺を | ★デイリー・ロク★
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「ゴキゲンに生きる」3000の知恵
おちゃらけ家族10年間の記録まだまだ更新中

海辺を

中学生くらいの女の子と
その父親らしき男性が
並んで歩いています。

観光地にありがちな
きれいな砂浜の風景じゃなくて、
街並みがすぐ近くにあって
ちょっと散歩に出た感じの、
そんな父娘連れ。

初夏の心地よい風が
女の子の髪を少しなびかせています。

夕暮れまでにはまだ時間があるけど
日はもうだいぶ傾きかけていて。


二人は
どんな会話をしているのでしょう。

もしかすると、
こんなことを
話しているのかも知れません。




「ねえ、お父さん?」

「うん?」

「あのね、
 画家になりたかったって本当?」

「なんだよやぶからぼうに(笑)。
 母さんに聞いたのか」

「うん」

「本当だよ。
 今でもなりたいと思ってる」

「ふーん」

「…」

「…」

「じゃあ、いまの仕事きらい?」

「うーん。いや、きらいじゃないな」

「でも本当は
 画家になりたいんでしょ?」

「でも、いまの仕事も好きだよ」

「画家になりたかったのに、
 どうして今の仕事を
 するようになったの?」

「画家になっても
 お金を稼げるようになるかどうか
 わかんないしさ。
 それよりは
 きちんと自活できそうな方を
 優先したんだな」

「夢を叶えることより
 お金を儲ける方が大事だったの」

「いや、
 そういうわけじゃないけどさ」

「じゃ、どういうわけ?」

「…」

「…」

「…母さんと出会ったとき」

「え?」

「『このひとを幸せにしよう』
 って誓った」

「だからお金を稼ごうと思ったの?」

「お金があるからといって
 幸福だと限らないのは知ってる。
 だけど、貧乏はいやだと思った」

「…」

「お金があれば、
 より豊かな人生を送れる」

「…」

「無いよりはましだろ?」

「…」

「それから、沙也香が生まれた」

「…」

「父さんは君と母さんの幸福のために
 出来る限りのことをしようと思った」

「…」

「たぶんその頃だな。
 絵を描かなくなったのは」

「…」

「…」

「それは、あたしと母さんが
 父さんの夢を潰したってことなの?」

「い、いや、そういうことじゃない」

「だってそういふうにしか聞こえない」

「そうすることが
 父さんの喜びだったんだ」

「喜び…?」

「毎日
 君たちの笑顔を見て暮らせることが、
 なにより嬉しかったんだ」

「…」

「仕事で辛いことがあった日も、
 家に帰って君の寝顔を見るだけで
 嫌な気分なんて吹っ飛んだ」

「…」

「『父さんなんてキライ!』
 って沙也香がふてくされても、
 そりゃあ落ち込んだけど楽しかった」

「…ヘンなの」

「ヘンだよな」

「ヘンだよ」

「…」

「…」

「…あのな、沙也香」

「何?」

「父さんは夢を
 あきらめたわけじゃない。
 だけどな」

「…」

「今は、君たちと一緒に過ごす
 毎日の暮らしが」

「…」

「父さんにとって
 キャンバスに描いている絵なんだ」

「…」

「毎朝やってくる真っ白な一日という
 キャンバスにさ」

「…ヘンなの」

「ヘンかな」

「ヘンだよ」

「…」

「…」

「…」

「…父さん?」

「うん?」

「いつか、本物のキャンバスに
 描いてね、すっごい絵」

「ああ」
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| 掌編小説 | | comments(3) |

コメント

感情移入してしまうほど
ステキです
何なんでしょうね
このすがすがしさは・・
| あんこや | 2011/05/26 9:39 AM |
”男”ってのは・・・女よりもずっとずっと、ロマンチストなんですよねぇ、きっと。

グッときます!
| くりき妻 | 2011/05/26 11:43 AM |
> あんこや さん
叶わなくても、夢をあきらめないでいることが、生きる支えになっていることもあると思うんです。

> くりき妻 さん。
ありがとうございます。
「ロク」は「ロマンチック」の略です(嘘)。
| 六郎 | 2011/05/26 2:11 PM |

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