掌編小説 | ★デイリー・ロク★
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「ゴキゲンに生きる」3000の知恵
おちゃらけ家族10年間の記録まだまだ更新中

OKINAWA1945

皆さん。

いよいよ明け方になれば
米軍はこの壕にやってくるでしょう。

われわれ守備隊の力およばず、
皆さんをこんな境遇に置いてしまったことを
たいへん心苦しく思います。

しかし、最後に
やつらに大和魂を見せつけてやろうじゃ
ありませんか。

「生きて虜囚の辱を受けず」と
戦陣訓にあります。

あえて国家に殉じる心意気を
ここで示してやろうじゃありませんか。


むろんこれは強制ではありません。

見ればまだ将来のある若い方もおられる。
幼子を抱えた母親の方もおられる。

白旗を掲げて
この壕を出て行かれるのは自由です。

だが私は心配だ。

なにしろ相手は鬼畜同様の人種です。

命は助かるかも知れないが、
どんな仕打ちが待っているか…。
どんな辱めを受けるか…。

また実際、命さえ危ういかも知れない。



これから手榴弾を配ります。

もう一度言いますが、
これは命令や強制ではありません。

出ていきたい人は出ていけばいい。

しかし、陛下の御心に沿う道はどうなのか
よく考えてから行動なさってください。

出ていきたい人はいますか。









・・・ありがとう。
それでこそ皆さん日本国民だ。

私は、あなたがたと一緒に戦えたことを
誇りに思います。


では、代表の方はこちらまで
手榴弾を取りに来てください。

ひと家族に一個ずつです。






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愛について

「ねえ」

「なんだよ」

「奥さんのこと、愛してる?」

「ふ。何を言い出すかと思えば」

「答えてよ」

「もうそんな齢じゃねーよ」

「ごまかさないで答えて」

「だから愛とかじゃねーんだよ」

   

    愛とかそんなの、もう…」


「愛していないのね」

「…」

「そう受け取っていいのね」

    だったらどうだって言うn」

「じゃあ奥さんと別れられる?」
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貧乏で儲ける方法

夢枕に貧乏神が立った。

いや本人が名乗ったわけではないのだが、
破れごろもに渋うちわ、
青ざめた顔にどんよりと
悲しそうな表情を浮かべているのは
どうみても貧乏神に違いない。

「いよいよ俺の家から
 出て行く決心がついたので
 挨拶に来たか」
と問うたら、

「いんや。おまえさん、
 ちょっと誤解してるよって
 その釈明に現れたんや」

「何が誤解だよ。
 おまえのせいで
 うちは貧乏なんだろ」

「うん、そこな。
 そこは間違いない」

「じゃあいいんじゃないか」

「そやけどな、貧乏をのぞけば
 あんたそこそこ
 幸福なんとちゃいまっか」」

「え」

「家族が大病を患うたことは?」

「…ない」

「夫婦が浮気でもめたことは?」

「…ない」

「子どもがグレたことは?」

「…ない」


「ほれみなはれ」

「しかしそれはなにも
 あんたのおかげじゃない」

「それが誤解やいいますねん」

「…なんで?」

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【掌編小説】 おばあちゃんを大切に

私は、毎日職場へ通うのに、
1時間ばかり通勤電車に揺られる。


ある日、混んだ車内に、
ずいぶんお年を召された女性が
乗り込んで来られた。

腰が曲がり、杖をついて
足元もおぼつかない様子だ。

混み合った乗客に押し出されるかたちで
私の席のすぐ近くまで来たので、
私は席をゆずろうと腰を浮かせた。

そしたら、すかさず
傍に立っていた中年のサラリーマンが
その尻を滑り込ませて座った。

なんという早業。

まあ、サラリーマン諸氏も
疲れていらっしゃるのに違いない。


次の日も似たようなことがあった。

乗り込んで来たのは、
昨日の老女よりも少し若い、
けれどかなりふくよかな白髪の女性で、
やはり杖をついている。

私はこんどは
「お座りになりませんか」
と、しっかりその人の目を見て
声をかけながら立ち上がった。

そしたらその女性は
「あら、わたしこう見えても
 まだ若いんですのよ」
と笑って座ろうとしなかった。

空いた席には、
学生風の男が座った。


そして、そのまた翌日のことだ。

ふと目を上げると、私の目の前に
長い髪を後ろで束ねたおばあさんが
立っていた。

とても小柄で、
しかもお疲れの様子だったので
「おばあさん、お疲れのようですね」
と立ち上がりながら声をかけた。

そしたら
「何をいう。ワシは男じゃ」
と、意外なほど低い声で応答されたので
とてもびっくりした。


そしてそのまた翌日。

電車は比較的空いていたが
座席はいっぱいだった。

色が黒くて背の高いおばあさんが
大きな荷物を背負い、
前のめりになって
よたよたと通路を歩いていた。

これまでのことがあるので、
私はどうしようかと迷っていたが、
まずいことに
そのおばあさんと目が合ってしまった。

「よ、よろしかったら…」
と私が立ち上がると、
そのおばあさんは急に背中を伸ばして
「ヒャッハァー!!」
と叫んだ。

それから白髪のカツラを脱ぎ、
顔の特殊メイクを引き剥がしながら
「びっくりしたでしょ!
 ボク偽善者を驚かすのが趣味なの!」
と大声で言った。

メイクの下から表れたのは
40歳ぐらいの男性の顔だった。

電車がちょうど駅に到着し、そいつは
ぴょんぴょん飛び跳ねながら降りていった。


そしてまた、翌日…。
| 掌編小説 | | comments(3) |

エスカレーター

「小学校から大学までの一貫教育は
 公立では全国でも初めてなんです」
と、学事課員が言った。

「一貫教育だと、高校生になる頃には
 子どもの学力レベルを一定のラインまで
 揃えることができるので
 高等教育を行う際に無駄がないのです」

美恵子は、黙ってうなずき、
横にいる夫の浩一を見た。

「ようするに《エスカレーター》ですね」
と浩一は笑った。

 

浩一の隣の椅子には
息子の祐太朗が腰掛けていた。

祐太朗はよく動く黒目がちの瞳で
興味深げにあたりを見回していた。

通っている幼稚園の先生方からも
利発さでは一目置かれている
自慢の息子だった。

美恵子は言った。
「ねえ、あなた、祐太朗の学力なら
 合格間違いなしって
 塾の先生も言ってらしたわ。
 受けさせてみましょうよ」

「そうだな…」
浩一は祐太朗の頭をなでながら
なんだか気のなさそうな返事をした。



やがて祐太朗は、美恵子の思惑どおり
その新しい学校に合格し、
4月から意気揚々と通い始めた。

「学校ではどんなことを教わってるの?」
と、ある日美恵子は息子に尋ねてみた。

「あのね。横山先生がね、いつも
 『君たちは大人になる準備をしている。
  だから少し嫌なことがあっても
  それを試練だと思って
  乗り越えなくちゃいかん』
 って、大きな声で言うんだよ」

「まあ、我慢させられてるの?」

「平気だよボク。
 世の中の役に立つ人になるためには
 我慢も大事だって教わったんだ」

「まあ…」


それから1年数か月が経ったある日、
祐太朗が意気消沈して学校から帰宅した。

「どうしたの」
と美恵子は尋ねた。

しかし、祐太朗は
「休み時間がね…」
と喋り出すまもなく
大粒の涙を目からあふれさせ、
しゃくりあげ始めた。

とぎれとぎれに祐太朗が語った話を
繋ぎあわせると、

学校では休憩時間にやることまで
事細かく決められているので、
少しは自由な時間も欲しいと
クラスの代表として教師に訴えたら、
「学校の先生方は君たちに
 立派な大人になってほしいから
 細かい規則を決めている。
 そんな先生方の思いやりを
 君たちは迷惑だというのか」
と、きつい調子で諭されたというのだ。

そしてクラスに戻って
皆にそれを伝えたところ
「せっかくクラスの代表に選んだのに
 祐太朗君は先生の味方ばかりする」
と糾弾されたらしい。


そのことがあって以来、祐太朗は
学校のことをあまり喋らなくなった。

やがて食が細くなり、
みるみる痩せていった。

医者に診せたら
「重いストレスを
 かかえているのではないか」
と言った。

美恵子も浩一も
祐太朗にいろいろ問いただしたが
息子は青ざめた顔で
首を横に振るだけだった。

「これはいけない。学校へ行こう」
と、浩一が意を決したように
美恵子を見た。



校長室のソファーは柔らかすぎて
ずっと座っていると腰が痛くなった。

「そういうわけで、学校には
 思い当たる節はまったくありません。
 他に似た症状の子もいないので、
 これはひとえに
 祐太朗君の健康上の問題であると
 明確に言えると思いますがね」
校長は一気に喋って
ずり落ちた眼鏡を中指で押し上げた。

「でも…」
と美恵子が言いかけたとき

「ま、お茶でもどうぞ」
と校長が声をかけたので
美恵子は気勢をそがれてしまった。

学校に行こうと言い出したのは浩一なのに
彼は校長室に入って以来一言も喋らず
部屋の中を見回してばかりいた。

「おわかりいただけましたか」
ややあって校長が
その柔和な声で談判打ち切りを促した。

美恵子は浩一を見た。

そしたら浩一が、とぼけた表情のまま
「あの…」
と声を発した。

「はい?」
と校長が顔を上げる。

「辞めることはできますか、学校」
浩一は相変わらず眠そうな表情で言った。

「エスカレーターは、一度乗ったら
 途中で降りることはできないんですよ」
校長の顔には嘲りの表情が浮かんでいた。

「じゃあ、長期療養ということにします」

「…それなら、仕方ありません。
 しかしもったいないですな、
 あれだけの才能がある息子さんを。
 高校や大学への進学も
 諦めることになりますよ」


帰る道すがら
運転席の浩一が
いつになく自分から口を開いた。
「校長室の壁に貼ってあった表を
 見たかい?」

「見なかったわ」

「歴代天皇の諡号一覧が貼ってあった」

「え?」

「前に祐太朗が
 『漢字ばかりの文を暗記させられる』
 って言ってたじゃないか」

「そういえば…」

「俺は、論語の素読だと思って
 『それはいいことだ』
 って言った覚えがある…」

「え、どういうこと?」


一方、彼らが帰った後の学校では
次のような会話が交わされていた。

「どうしますか、校長」

「放っておいていいだろう」

「やはり自営業の家庭は駄目ですね」

「自由というものをはき違えているよ。
 社会のルールを教えることが先だ」

「しかし、今後もああいう親が
 出てこないとは限らないですよ」

「あ、これは査察官、いらしてたんですか」

「国家教育の根本は、
 権威に対する服従と忠誠を
 骨の髄からたたき込むことです。
 一貫校はその環境として実に適している」

「はい」

「高い能力を持ったよき労働者が
 国の産業を支え、
 素直な感性を持ったよき消費者が
 国の経済を支えるのです」

「おっしゃるとおりです」

「そして忠誠心に厚いよき兵士が…」

「査察官」

「おっと、これはまだ
 言ってはいけないことでした。
 それにしても」

「はい?」

「エスカレーターは
 見直さないといけないかも
 知れませんね」

「…と、言いますと?」

「エスカレーターは、乗っている様子が
 外部から丸見えじゃないですか」

「確かに」

「子どもの様子を
 親が常に観察できる状態だから
 いけないのです」

「…」

「全寮制にするとかして、
 閉鎖空間にしてしまわないと」

「査察官、それはもしかして」

「そう、つまり」

「「エレベーター!」」


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栗村博士の発明品(第5話)

霊が見えるようになった。

そうなのだ、
急に見えるようになったのだ。
何故かはわからない。

俺は知り合いの栗村博士の所へ
相談に行った。

「どんな霊が見えるんじゃ」
と、博士は尋ねた。

「いや、それがよくわからないんです。
 女房の肩のところに
 白くてぼやっとしたものが
 ふわふわ浮いているのが見えるんです」

「どうしてそれが霊とわかる」

「私に話しかけてくるんです」

「なんと」

「どうもそいつは、私の女房が
 むかし堕胎した子供の霊らしく」

「いやはや。
 で、奥さんは」

「事が事だけに妻には話してません。
 しかし、妻にそんな過去があったなんて
 ショックで」

「それはそうかも知れんが…。
 しかし、何故わしのところへ相談に来た。
 そもそも坊主か霊能者に
 持ちこむ話じゃろう」

「霊の存在が科学的に証明できれば、
 妻も言い逃れできないと思うんです」

「…なるほどな。
 よしわかった。1カ月後にまた来なさい」

「引き受けていただけますか!」

「次は奥さんを連れて来るんじゃぞ」

「はい!」

俺は明るい気持ちで研究室を後にした。


そして待ちに待った1カ月後、
俺は女房と一緒に
再び博士の研究室を訪ねた。

「よく来たな。
 これが霊視スコープじゃ」

博士はテレビカメラのような機械を示した。

「これで写したものが
 あっちの画面に映る」
と博士が指さした別室で
パソコンを操作しているのは、
二十代後半のすっげぇ美人だった。

「おっと、紹介しておこう。
 助手のレイコ君じゃ」

その美人が立ち上がって会釈した。

「あ、ど、どうも…」
俺もどぎまぎと挨拶を返した。


「さて、
 それではさっそく見てみようかの」
と、栗村博士はもみ手をしながら言った。

俺は、渋る女房を
健康診断とごまかして
機械の前に立たせた。

操作室を振り返ると、
博士とレイコ助手が厳しい表情で
画面を見つめている。

「ど、どうですか…?」
俺はおそるおそる近寄って行った。

「君、これを見たまえ。
 奥さんの肩のところに
 白い物体が浮いておる」
と、博士は言った。

「…」
俺は画面を食い入るように見た。

「なんだか気味が悪いですわね」
レイコ助手が眉をひそめる。

「そ、そうですね…」
俺はもう一度画面に目をこらした。

だが、そこに映っているのは
おびえた表情の女房だけだった。

白い物体など、何も見えない。

戸惑っている俺に
栗村博士が近づいてきて、言った。
「君の言うとおり、
 奥さんの隠し事が
 これで証明されたわけだが、
 これからどうする気だね?」

俺は気をとりなおした。

まあ細かいことは気にすまい。
この事実を女房に突きつけるだけだ。

「仕方がないです。離婚します」

「ほう」

「今まで妻は私を欺いていたんです。
 侮辱されてこのまま夫婦でいるわけには
 いきません。
 当然慰謝料も財産分与も無しです」

「そうか」

「博士、証人になってくれますね」

すると突然、栗村博士は
「奥さん、お聞きになりましたか」
と、機械の前にいる女房に向かって
呼びかけた。


えっ?

どういうことだ?


栗村博士がニヤリと笑った。

「君の計画は失敗じゃよ。
 たぶん愛人ができたかどうかして、
 慰謝料も財産分与も無しに
 離婚しようと思ったんじゃろうが、
 甘かったな」

「…」

「見栄っ張りで欲深なワシが、
 インチキな機械をこさえると
 考えたんじゃろうが…」

「…」

「あの画面には、白い物体など
 もともと映っておらんかったんじゃよ」


「…くそっ、あんなインチキ機械…」
俺は吐き捨てるように言った。

そしたら栗村博士は
「何を言う。あれは本物じゃ」
と気色ばんだ。

「え」

「実験段階で
 うちの助手のレイコ君を写したら、
 彼女にまとわりつく男の
 死霊やら生き霊やらが
 うじゃうじゃと」


・・・マジかよ!



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海辺を

中学生くらいの女の子と
その父親らしき男性が
並んで歩いています。

観光地にありがちな
きれいな砂浜の風景じゃなくて、
街並みがすぐ近くにあって
ちょっと散歩に出た感じの、
そんな父娘連れ。

初夏の心地よい風が
女の子の髪を少しなびかせています。

夕暮れまでにはまだ時間があるけど
日はもうだいぶ傾きかけていて。


二人は
どんな会話をしているのでしょう。

もしかすると、
こんなことを
話しているのかも知れません。




「ねえ、お父さん?」

「うん?」

「あのね、
 画家になりたかったって本当?」

「なんだよやぶからぼうに(笑)。
 母さんに聞いたのか」

「うん」

「本当だよ。
 今でもなりたいと思ってる」

「ふーん」

「…」

「…」

「じゃあ、いまの仕事きらい?」

「うーん。いや、きらいじゃないな」

「でも本当は
 画家になりたいんでしょ?」

「でも、いまの仕事も好きだよ」

「画家になりたかったのに、
 どうして今の仕事を
 するようになったの?」

「画家になっても
 お金を稼げるようになるかどうか
 わかんないしさ。
 それよりは
 きちんと自活できそうな方を
 優先したんだな」

「夢を叶えることより
 お金を儲ける方が大事だったの」

「いや、
 そういうわけじゃないけどさ」

「じゃ、どういうわけ?」

「…」

「…」

「…母さんと出会ったとき」

「え?」

「『このひとを幸せにしよう』
 って誓った」

「だからお金を稼ごうと思ったの?」

「お金があるからといって
 幸福だと限らないのは知ってる。
 だけど、貧乏はいやだと思った」

「…」

「お金があれば、
 より豊かな人生を送れる」

「…」

「無いよりはましだろ?」

「…」

「それから、沙也香が生まれた」

「…」

「父さんは君と母さんの幸福のために
 出来る限りのことをしようと思った」

「…」

「たぶんその頃だな。
 絵を描かなくなったのは」

「…」

「…」

「それは、あたしと母さんが
 父さんの夢を潰したってことなの?」

「い、いや、そういうことじゃない」

「だってそういふうにしか聞こえない」

「そうすることが
 父さんの喜びだったんだ」

「喜び…?」

「毎日
 君たちの笑顔を見て暮らせることが、
 なにより嬉しかったんだ」

「…」

「仕事で辛いことがあった日も、
 家に帰って君の寝顔を見るだけで
 嫌な気分なんて吹っ飛んだ」

「…」

「『父さんなんてキライ!』
 って沙也香がふてくされても、
 そりゃあ落ち込んだけど楽しかった」

「…ヘンなの」

「ヘンだよな」

「ヘンだよ」

「…」

「…」

「…あのな、沙也香」

「何?」

「父さんは夢を
 あきらめたわけじゃない。
 だけどな」

「…」

「今は、君たちと一緒に過ごす
 毎日の暮らしが」

「…」

「父さんにとって
 キャンバスに描いている絵なんだ」

「…」

「毎朝やってくる真っ白な一日という
 キャンバスにさ」

「…ヘンなの」

「ヘンかな」

「ヘンだよ」

「…」

「…」

「…」

「…父さん?」

「うん?」

「いつか、本物のキャンバスに
 描いてね、すっごい絵」

「ああ」
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| 掌編小説 | | comments(3) |

クリスマス・イブ

息子らはもう20歳と18歳。

親の欲目を抜きにしてもイケメンだが
なぜかカノジョがいない。

今夜はクリスマスイブだというのに
空手の師範に誘われて
男臭い連中とカラオケに行った。


妻からも「残業で遅くなる」と
メールが入った。

クルマが故障して
買い物に行くのが面倒だったので
冷蔵庫の中にあるものだけで
夕食を済まそうと思った。

マグロのフレーク缶詰と
インスタントの味噌汁と
もらい物のハムがあった。


息子たちが小学生だった頃は、
クリスマスイブには
小さなケーキとフライドチキンを
妻が必ず用意したものだ。

ツリーを飾らなくなったのは
いつ頃からだろう。


ご飯を食べ終わって、
流し台の洗い桶の中に食器を漬け、
風呂の湯のスイッチをつける。

外のガス湯沸かし器の
ゴーッという音がする。

天気予報で
今夜はものすごく寒くなって
北部では雪がちらつくと言っていた。


風呂に湯が溜まる前に
「うーさぶいさぶい」
と妻が帰ってきた。

上着を脱ぎながら
「どうしたのストーブつければいいのに」
と言うので、

「いや、一人だともったいなくてな…」
と答えたら

「ばかね」
と笑った。

妻が持って帰った白いビニール袋が
居間の入り口に置いてある。

気になったので
「それは何?」
と尋ねた。

「あ、これ? ポインセチア」

 

「どうしたんだ」


「だって今日クリスマスイブじゃない」




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遠い夏の日

みゆきさん。

覚えておいでですか。


いつだったか
ひとに贈る草履を選んでもらおうと、
私と一緒に履物屋へ行ったとき

店の主人が
「奥様ですか」
と、

あなたのことを言いましたよね。


「ち、違いますよ」
慌てて否定する私と

口に手を当てて くすり と
笑ったあなた。


あなたはあのとき
どう感じたのですか。

何も思わなかったのですか。


白い日傘が目に浮かぶのです。

それから風鈴の音も。


正直に申し上げます。

あのとき私は
ほんとうは嬉しかった。


でも

私は
そんな私自身の気持ちに
気がつかなかった。

気づかないふりをしていた。


みゆきさん。

もう遠い夏の日のことです。

翌年の正月に帰省した折
婚礼の様子を母から聞きました。

きっともう
お子様も大きくおなりでしょう。


そういえば、あのとき買った雪駄、
結局は贈ることができなくって、
今も手元にあります。

あなたが手づから選んでくださった
雪駄ですよ。
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若いときしかできないこと

「若いときしかできないことってあるよな」

そうだね。
年とってから後悔しないようにしなきゃね。

「俺、こないだ思い知ったよ」

え、何。

「女房にコスプレしてくれって頼んだら
 はりたおされた」


・・・そっちかよ!


「だけどあれだな」

…?

「『裸にエプロン』って
 尻が下がると見れたもんじゃないな」


・・・やったのかよ!
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